てんかんを知る コラム&ニュース
<コラム>第42回 「てんかんにおけるモーツァルト効果2.0」
「モーツァルトを聴くと頭が良くなる」という話を聞いたことはあるでしょうか。
遡ること1993年、心理学者ラウシャー(Frances H. Rauscher)らは学術誌「ネイチャー(nature)」に、モーツァルトの「2台のピアノのためのソナタ ニ長調K.448」を学生に聞かせたところ知能検査において他の音楽を聞かせた、または何も音楽を聞かせなかった学生よりも一時的に(約15分間)高い成績を示したという研究結果を発表しました。
これは「モーツァルト効果」として新聞などで報道され、大変な注目(注)を集めましたが、現在では追加の様々な研究が行われた上で、
知能の発達効果はないことが示されています。
ここで終わらないのが研究の面白いところで、そんなに知能に効果があるならてんかんにも良いのでは? と考えた研究者がいます。
1998年ヒューズ(Jhon R. Hughes)らによって発表された論文「The "Mozart effect" on epileptiform activity」ではK.448を重症なてんかん患者に聞かせたところ、てんかん様放電 (Interictal epileptiform activity:IEDs※)が減少するという結果が示されました。
(※てんかん性放電(IEDs):発作間欠期に見られる脳波上の異常波形であり、てんかん発作のリスクや認知機能障害と密接に関連しているバイオマーカー)
これを皮切りに「てんかんにおけるモーツァルト効果」はここから四半世紀ほどかけて多数の研究によって検証されています。
その結果
・小児において半年間IEDsの減少効果が維持された。
・脳の表面に敷いた電極から記録したIEDsも抑制された。
・小児において初回のてんかん発作の2年後の再発率を下げた。
などの研究結果が発表され、それらの研究の質がある程度高かったことから、現在ではK.448のてんかん抑制効果は一定の科学的根拠に基づくものとして認識されることとなりました。
さらに、類似の音楽的特性を持つとされる、モーツァルトK.545(ピアノソナタ ハ長調)にも同様の効果が見られること、一方で、ベートーヴェンの「エリーゼのために」や、K.448の逆再生では同様の効果が見られないこと、ハイドン交響曲第94番では悪化すること、などの知見が発表されました。したがって、モーツァルトのK.448は他の楽曲と比較しても、IEDsやてんかん発作を抑制する効果が高いという結果が一貫して得られました。
では、なぜ、K.448なのでしょうか?
現在ではそのメカニズムに注目が集まり、もはやモーツァルトの楽曲の幅を超え、てんかんを抑制しうる音楽は、どのような音とリズムの構成なのか、その音楽的な特徴(音響特性)を検証する段階に来ています。
近年は、脳波解析や音響解析が進み、どのような音響特性がてんかん性放電を抑制しうるのかという研究段階に入っています。さらに生成AIの発展により、将来的には「自分の脳に合った音楽を個別に設計する」という時代が来る可能性もあります。
音楽は娯楽であると同時に、脳科学の研究対象でもあります。
てんかんと音楽の関係は、まだ研究の途中段階ですが、
“聴くこと”が脳に与える影響の奥深さを感じさせるテーマといえるでしょう。
注:「モーツァルト効果」は報道により大きく拡大解釈され、心身の健康や様々な疾患への万能効果があるかのように宣伝された時期がありました。しかし現在では、そのような主張を支持する科学的根拠はありません。
文責 脳神経外科 林 貴啓
遡ること1993年、心理学者ラウシャー(Frances H. Rauscher)らは学術誌「ネイチャー(nature)」に、モーツァルトの「2台のピアノのためのソナタ ニ長調K.448」を学生に聞かせたところ知能検査において他の音楽を聞かせた、または何も音楽を聞かせなかった学生よりも一時的に(約15分間)高い成績を示したという研究結果を発表しました。
これは「モーツァルト効果」として新聞などで報道され、大変な注目(注)を集めましたが、現在では追加の様々な研究が行われた上で、
知能の発達効果はないことが示されています。
ここで終わらないのが研究の面白いところで、そんなに知能に効果があるならてんかんにも良いのでは? と考えた研究者がいます。
1998年ヒューズ(Jhon R. Hughes)らによって発表された論文「The "Mozart effect" on epileptiform activity」ではK.448を重症なてんかん患者に聞かせたところ、てんかん様放電 (Interictal epileptiform activity:IEDs※)が減少するという結果が示されました。
(※てんかん性放電(IEDs):発作間欠期に見られる脳波上の異常波形であり、てんかん発作のリスクや認知機能障害と密接に関連しているバイオマーカー)
これを皮切りに「てんかんにおけるモーツァルト効果」はここから四半世紀ほどかけて多数の研究によって検証されています。
その結果
・小児において半年間IEDsの減少効果が維持された。
・脳の表面に敷いた電極から記録したIEDsも抑制された。
・小児において初回のてんかん発作の2年後の再発率を下げた。
などの研究結果が発表され、それらの研究の質がある程度高かったことから、現在ではK.448のてんかん抑制効果は一定の科学的根拠に基づくものとして認識されることとなりました。
さらに、類似の音楽的特性を持つとされる、モーツァルトK.545(ピアノソナタ ハ長調)にも同様の効果が見られること、一方で、ベートーヴェンの「エリーゼのために」や、K.448の逆再生では同様の効果が見られないこと、ハイドン交響曲第94番では悪化すること、などの知見が発表されました。したがって、モーツァルトのK.448は他の楽曲と比較しても、IEDsやてんかん発作を抑制する効果が高いという結果が一貫して得られました。
では、なぜ、K.448なのでしょうか?
現在ではそのメカニズムに注目が集まり、もはやモーツァルトの楽曲の幅を超え、てんかんを抑制しうる音楽は、どのような音とリズムの構成なのか、その音楽的な特徴(音響特性)を検証する段階に来ています。
近年は、脳波解析や音響解析が進み、どのような音響特性がてんかん性放電を抑制しうるのかという研究段階に入っています。さらに生成AIの発展により、将来的には「自分の脳に合った音楽を個別に設計する」という時代が来る可能性もあります。
音楽は娯楽であると同時に、脳科学の研究対象でもあります。
てんかんと音楽の関係は、まだ研究の途中段階ですが、
“聴くこと”が脳に与える影響の奥深さを感じさせるテーマといえるでしょう。

注:「モーツァルト効果」は報道により大きく拡大解釈され、心身の健康や様々な疾患への万能効果があるかのように宣伝された時期がありました。しかし現在では、そのような主張を支持する科学的根拠はありません。
文責 脳神経外科 林 貴啓